読書百物語

    第一話〜第四話
    〜レベル7/試験に出るパズル/鉄鼠の檻/46番目の密室〜





第一話 
『レベル
7』(宮部みゆき)




 
『レベル7』といえば、敵がスライムからワンランクアップし、そろそろフェニックスの尾が必要になり、あるいはウルトラマンセブンと同等の水準に上がってきたことを意味するわけですが。ところがどっこい、この作品では「レベル7まで行ったら戻れない」わけで。ハテ、レベル6までしか許容できないダンジョンなんてあったかしらん、と首を捻るのです。そもそもレベル7なるもの、3部咲きの桜のようなもので、「早く咲けよ」とか思う間もなく、気が付いたら通り過ぎている段階。別に戻れないと言われても、「ああいいさ、それならいっそ99まで上げちゃうもんね」と某ゲーマーのように拗ねる事もなく、またそんな時間もありません。


 しかし、聞けば宮部みゆき氏は大変なゲーム好きであるとか。ならば、『R.P.G.』『ブレイブ・ストーリー』とゲームへの愛を惜しみなく作品に注ぎ込むあの宮部氏のこと、必ずや『レベル7』にも切実な思いの丈が詰め込まれているに違いない。そこで、はたと気付くわけです。あれ、ドラゴ○・ク○ストもファイ○ル・ファンタ○ーも、確かセブンからPSに移っていたような?3Dになっていたような?もしかして?


 そう。そうなのです。この作品は、ファミコン世代として育った宮部氏が、Pという驚異的ハイスペックの機種に出会った結果、旧世界の遺産となったファミコンとの決別を宣言した、悲哀に満ちた作品だったのです!「PSまで行ったら、もうファミコンには戻れない」。なんと悲しみに満ちた宣告でありましょうか。奇しくも文庫版『レベル7』が発売された1993年、ゲームのやり過ぎで財政状況が絶望的になった己の悲劇を描いた『火車』で、宮部氏は山本周五郎賞を受賞するのです。







第二話 
『試験に出るパズル』(高田祟史)




 『試験に出るパズル』を刊行した高田祟史氏は、大変に勇気がおありな方です。この本を刊行した段階で、氏は己の全人生を賭けた大博打に打って出たと言っても過言ではない。何せ『試験に出るパズル』、試験に出なかった時には、ヤマ勘を外した学生よろしく放課後の教室でボコられること必定。下手をすると体育館裏に連れていかれちゃいます。
QEDシリーズの如く、「いや実は高田祟史は二人いて、この高田祟史は私ではなくて……」と言い訳をしても、「五月蝿い」と五月の蝿のように一蹴されてしまいます。


 そのせいでしょうか。パズルシリーズ
作目は、『試験に出ないパズル』。……黙祷を捧げたいと思います。







第三話
『鉄鼠の檻』(京極夏彦)




「機能美という言葉を知っているか」

「何ですか、唐突に」

「機能美ってのは、元々ある機能を追及して作られた物が、その機能を十分に発揮するが故にそれ自体で調和が取れた美を醸し出すようになっていた、ということだ」

「よく日本の城のことを指しますよね。姫路城とか、松本城とか」

「そうだ。城としての機能を追及していたら、あれだけの壮麗で美しい建築物になってしまった、というわけだな」

「で、その機能美がどうしたんですか」

「うむ、いや機能美とはやや意味合いが違うが……当初の機能とは別に、新しい機能を果たすようになるものってのは、機能美と一緒で凄いと思うわけだ」

「はあ」

「本来ただの読み物であった小説が、それ自体で別の機能を発揮したら、それはとてつもないことだ」

「ん?」

「まして、本棚に置いておいたら映えるとか、頭良さそうに見えるとか、そういう次元を超え始めたら、それはもはや小説とは呼べない。いわば超小説!東野圭吾の『超・殺人事件』もびっくりだ」

「あれ、もしかして……」

「というわけで、京極夏彦の文庫は枕になる点で超小説かと

「あー!駄目ですって!そんなこと言ったら周りから色んなものが飛んできて」







第四話
『46番目の密室』(有栖川有栖)




 第1の密室。48日、大学構内の教室でAが殺された。
  現場に犯人の影はなく、内側から閂状の鍵が掛かった密室だった。
 2の密室。411日、マンションの一室でBが殺された。
  犯人の影はなく、現場はチェーンの掛かった密室だった。
 
3の密室。416日、自宅居間でCが殺された。
  犯人の影はなく、現場はロックされた密室だった。



                  ※


        本格ミステリに挑戦する問題作――清涼院流水。

               驚愕、衝撃!
     本格ミステリ至上屈指、46の密室殺人事件、前例のないトリック!
           驚異の新作、満を持して登場!
              20041028日発売!
  (書店チラシ)


                  ※


 第13の密室。522日、カラオケボックスでMが殺された。
  現場はテーブルで扉を塞がれた密室だった。
 14の密室。528日、漫画喫茶でNが殺された。
  現場はシングル個室、内側から漫画で塞がれた密室だった。



                  ※


 最初読んでいて疑問だったんです。これ、46個も密室殺人が出てくるじゃないですか。アルファベットは26文字だから、27番目以降の人はどうするんだろうと。そしたら、段々奇妙な記号がいっぱい出てきまして。読めないですよね。でも、最初から46個も殺人事件作るつもりだったなら、どうして数字とかにしなかったんでしょう。アルファベットじゃ詰まるって、分かってた筈なのに。実は、最初は46個も作る気なかったんじゃ(笑)まさかそんなことは無いですよね。
  (読者の声)


                  ※


 第28番目の密室。自宅風呂で△が殺された。現場は密室だった。
 29番目の密室。オフィスで☆が殺された。現場は密室だった。


                  ※


 今回は連載ものだったから。いやあ、苦労したよ。最近この作家さんいまいちだったでしょ?次こそヒットださなきゃって、尻叩いて書かせたんだよ。

 え、最初から46人って決まっていたのかって?いやあ、それは俺も知らなくてね。何も教えてくれないんだ。どんなミステリだって聞いたら、「たくさん死ぬ」って。連続ものは今流行らないぞって言ったら、「全部密室殺人にする」って。それ以上は全く教えてくれなくてね。仕方ないから、毎回ただ原稿を貰っていたよ。

 
今から思えば、多分こんなに殺すつもりは無かったんだろうね。俺が尻叩きすぎたせいで、解決編も作れないままひたすら事件増やしてた気もするよ。大丈夫かって聞いたら、「何とかする」って。この結末は、俺にも責任があるんだろうね。

(担当編集者インタビュー)



                  ※


 第38の密室。Σが殺された。現場は密室。
 39の密室。Φが殺された。現場は密室。


                  ※


 いやー、15人超えたあたりで思いましたよ。こりゃ、清涼院流水的解決しかないだろうって。だって、事件の記述だけでどんどんページ使ってさ、解答編のページ、ほとんど残ってなかったじゃん。つーか、1ページでしょ。真っ当な解決が望めないことは、読んでて分かったよ。でもね、これ。これは、ありかい?  (書評HP


                  ※


 第45の密室。λ殺された。密室。
 46の密室。ρ殺された。密室。

――15年前に引き起こされた46の密室殺人は、遂に解き明かされることのないまま、20041028日午前0時、時効を迎えた。



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