読書百物語


第五話〜第八話
〜十角館の殺人/創世記/すべてがFになる/館という名の楽園で/〜






えっと、かなりネタ切れ気味……
第五話 
『十角館の殺人
』(綾辻行人)




「十角形の館で起こる殺人、ということですが」

「実は俺もそんな設定の作品を書いたことがあるんだ」

「嘘は言わないでください」

「本当だって。これでも……」

「嘘ですね」

「若いころは小説家を目指して……」

「嘘つき」

「……」

「……」

「十角形であるからして、登場人物はやはり10人で然るべきだと思うんだ」

「そうですか」

「海に浮かぶ孤島に集められた10人。ところが嵐が島を襲い、外部への一切の連絡手段が絶たれてしまう。閉ざされた孤島。その夜、惨劇の幕があがる!1人、また1人と殺されて……。誰が、何のために!?密室と化した島を襲う、未曾有の混乱と恐怖!! 」

「アガサ・クリスティのパクリですか」

「逃げ惑う人々は次々と殺人鬼の魔手にかかり……そして2人だけになった

「いきなり2人の巨匠の作品を」

「残った2人は考えるんだ。どちらかが彼女を殺した、と」

「今度は東野……って彼女って誰ですか」

「彼女だよ」

「彼女の名前を聞いてい……」

「ええい、うるさい。五月の蝿のように五月蝿い」

「……」

「ともかく、彼女が死んだ夜、2人は対峙する。男は思う、俺は生きて帰らなきゃいけない、頼子のために

「いやいや」

「一方女も考える、彼女の死に際に言った台詞、“日曜の夜は出たくない”。これはきっと男のストーキング行為を指しているに違いない!」

「待て」

「ところが殺人は止まない!なんと男女両人とも殺されてしまう。姑獲鳥の夏カレイドスコープ島には10の死体が残り……そして誰もいなくなった

「最後だけ妙に綺麗にしめましたね」

「終わりよければ全てよし、と」

「いいんですか……で、誰が犯人だったんですか」

「彼女さ」

「だって彼女は……」

「ちっちっち、SF本格をなめてはいけない。死者は黄泉が得るのさ」

SFかよ!ったくもう……ところで、十角館はどこにいったんですか?」

「だから10個ミステリの題名を入れたじゃないか」







第六話 
『創世記
』(旧約聖書より)


※当文章は宗教とはなんら関係ありません。

創世記パロディ〜


 初めに、本の神はを創造された。サイズは混沌であって、単行本が書物の面にあり、本の神のカバンは単行本が入らなかった。本の神は言われた。
文庫あれ」
 こうして、文庫があった。本の神は文庫を見て、良しとされた。本の神は文庫と単行本を分け、文庫をお買い特と呼び、単行本をお時間特と呼ばれた。夕べがあり、朝があった。第一の日である。
 
 本の神は言われた。
「物語の中にジャンルあれ。物語と物語を分けよ」
 本の神はジャンルをつくり、ノンフィクションフィクションに物語を分けさせられた。そのようになった。本の神はノンフィクションをルポルタージュと呼ばれだ。夕べがあり、朝があった。第二の日である。

 本の神は言われた。
フィクションの中の文学性は一つ所に集まれ。娯楽性が現れよ」
 そのようになった。本の神は娯楽性をエンターテインメント、文学性の集まった所を純文学と呼ばれた。本の神はこれを見て、良しとされた。本の神は言われた。
「エンターテインメントは小説を芽生えさせよ。文字で語る小説と、絵で語る漫画を、エンターテインメントに芽生えさせよ」
 そのようになった。エンターテインメントは小説を芽生えさせ、文字で語る小説と絵で語る漫画を芽生えさせた。神はこれを見て良しとされてた。夕べがあり、朝があった。第三の日である。

 本の神は言われた。
「駅の近くに本屋があって、隣に喫茶店を並べ、憩いのしるし、本読みの聖地となれ。大学の中にも生協があって、本を売れ」
 そのようになった。本の神は二つの大きな建物を造り、大きなほうに本を治めさせ、小さな方にコーヒーを治めさせられた。本の神はそれらを駅の近くに置いて、本読みを誘惑し、本とコーヒーを治めさせ、憩いの場を設けられた。本の神はそれを見て良しとされた。夕べがあり、朝があった。第四の日である。

本の神は言われた。
「本紹介が電車の中吊りに群がれ。インターネットは書評のページを載せろ」
 本の神は電車に群がるもの、すなわち中吊り広告壁貼りポスターをそれぞれに、また、書評ページをそれぞれに創造された。本の神はそれを見て良しとされた。本の神はそれらのものを祝福して言われた。
「産めよ、増えよ、世界中の電車に満ちよ。書評は新聞の広告としても増えよ」
 夕べがあり、朝があった。第五の日である。

 本の神は言われた。
「小説は、それぞれの作品群を生み出せ。ファンタジー、ミステリ、SFをそれぞれに生み出せ」
 そのようになった。本の神はそれぞれのファンタジー、それぞれのミステリ、それぞれのSFを作られた。本の神はこれを見て良しとされた。本の神は言われた。
「我々にかたどり、我々に似せて、暇人(どくしょじん)を造ろう。そして純文学の私小説、ルポルタージュ、ファンタジー、ミステリ、SF全てを支配させよう」
 本の神は御自分にかたどって暇人を創造された。
 本の神にかたどって創造された。
 良き暇人(一般人)と悪しき暇人(マニア)に創造された。
 本の神は彼らを祝福して言われた。
「産めよ、増えよ、本屋に満ちて本を従わせよ。純文学の私小説、ルポルタージュ、ファンタジー、ミステリ、SF全てを支配せよ」
 本の神は言われた。
「見よ、本屋に並ぶ、小説と漫画を、すべてあなたたちに与えよう。それがあなたの食べ物となる。純文学の私小説、ルポルタージュ、ファンタジー、ミステリ、SFなど、すべて文字たるものにはあらゆる栄養を宿らせよう」
 そのようになった。本の神はお造りになったすべてのものをご覧になった。見よ、それは極めて良かった。夕べがあり、朝があった。第六の日である。

 書物万物は完成された。第七の日に、本の神は読みたい本が出来たのでご自分の仕事を離れ、読書なさった。この日に本の神はすべての創造の仕事を離れ、読書なさったので、第七の日を本の神は祝福し、聖別された。
 これが本屋創造の由来である。







第七話 
『すべてがFになる
』(森博嗣)




 きっと日本国民
13000万人のうち半数以上の方々は、本書を手にとって開口、このようにおっしゃるでしょう。曰く、「Fって何?」
 理系分野ではあるいは馴染みかもしれないこの言葉、私を含む文系諸氏にはちょっと新鮮な耳障りであるわけです。そこで、私のHPを日夜チェックしてくたさる数多の皆様(「数多」と書いて「よん」と読みます)に、インタビューしてみました。すべてがFになるって、どういう意味ですか?


■経済学部生S

 F」? そりゃあ大学の単位の評価じゃねえ? うちの大学はAD4評価だけどさ、きっと名古屋あたりの大学はAF6評価なんだよ。え、じゃあ全てがFになるってどういうことかって? つまり、某大学の○草教授みたいに問題を引き起こして、全単位剥奪、てなことじゃない? ”


■理工学部生F

 “ やっぱ俺ってば先見の明がありますから。そりゃあ、今の段階では電波悪、値段高、普及低、の3重苦を背負ってますけどね。もう少しNTTが頑張れば、いずれはFの時代が来ますって。え? だからFでしょ。FOMAのことでしょ? さすが森博嗣さん、携帯電話の未来を予言する本でデビューですか。


■文学部生N

 昔から変だなあって思ってたの。日本語って元々H音が存在しなかったらしくて、だから「は行」自体が後から出来たみたい。道理で、「はひふへほ」の内「ふ」だけがF音だもんね。きっとね、遠い将来には、「はひふへほ」が「ふぁふぃふふぇふぉ」になるんだよ。そしたら歯磨きはファ磨きだね。


■文学部生W

 いや、ぶっちゃけそんなことは有り得ないとおじさんは思うけどさ。でもね、でもね、こればっかりは作家さんの自由だからしょうがないでしょ? 理想を立てるってのは、ほら、個人の自由だし、社会的影響ってのを考えれば、きっと大切なことなんだよ。人類皆兄弟、人類皆「家族」ってね。



 ……後半になればなるほど苦しくなっているのが分かりますね。

      (当文章は完全なる「F」、すなわちフィクションです)







第八話 
『館という名の楽園で
』(歌野晶午)




400円文庫から、歌野さんの館モノです」

「本格ミステリファンなら、館と聞いただけで涎モノだな」

「これはそんなファンのために書かれたようなものですね。稚気と愛が溢れている作品です」

「さて、館と言えば、ファンなら一度は自分で考えてみたことがあるだろうが」

「あ、嫌な予感」

「実は俺も昔考えたことがあってな」

「……綾辻さんのコーナーで懲りたのでは無かったのですか」(第5話参照)

「ふ、ミステリファンなら七転八倒するものさ」

「七転八倒してどうすんですか。七転び八起きでしょ」

「……さて、肝心の館だが」

「さり気無くスルーしましたね」

「その名もずばり“亡霊館”!」

「何だ、お化け屋敷ですか」

「違う!」

「ホーンテッドマンション?」

「だ、断じて違う!そ、そんな通俗的なものと一緒にするな!」

「本格ミステリこそ通俗の極みかと思うのですが」

「!!!」

(ちょっと休憩)

「……兎も角、館は亡霊館という。そこでは、夜な夜な亡霊が出るという噂が」

「ああ、体の節々が痛い。……幽霊ですか」

「いや、それが何と足があるのだ」

「益々怖くないですね」

「ふっふっふ、怖いのはこれからさ。何と亡霊の中には自分と同じ顔の奴が!」


「ドッペルゲンガー?」

「それだけじゃない。そいつ等はな……たくさん現れるのだあああ!」

「何だ、ミラーハウスじゃないですか」

「!!!」




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