―歌野晶午―(うたのしょうご、1961〜)


 ミステリ作家さん。綾辻行人、法月倫太郎らと並び、新本格第1期生として活躍。なのでやっぱり寡作。2003年刊行の『葉桜の季節に君を想うということ』(文芸春秋)で前代未聞の4冠達成を成し遂げる。今旬のイイ男。文庫では後書きをあまり書かない人なので、不用意に後ろを見るとミステリ真相のまさに最後が見えちゃったりする。注意(古傷が……)

 もともとはガチガチの本格ミステリを書いていたようなのですが、最近は読者を驚かすことに全力を注いでいる様子。特に『葉桜』、『世界終始』『ROOMY』などは、読んだ者を唖然とさせずにはおれない。はず。騙される快感、を味わいたいのなら、必読の人。



ブードゥー・チャイルド 角川書店   “ 前世、僕は黒人でした。
    チャーリー、――それが僕の名前でした。
 ”

 前世の記憶を持つ主人公。奇妙な電話が端緒となって、やがて殺人が……。
 「世界終始」「葉桜」と合わせた三部作の1作目。といっても内容は全く独立。物語自体は非常に重いテーマをはらみ、かつ主人公の境遇が辛いので、中々に胸が痛くなる本。だけど最後の真相は見事。あなたは前世の記憶の謎を解明できますか?

世界の終わり、
あるいは始まり
読むから。もうすぐ読むから(涙)

葉桜の季節に
君を
想うということ
文藝春秋 “ みんな、桜が紅葉すると知らないんだよ。 

 日本推理作家協会賞受賞、本格ミステリ大賞受賞、「このミスがすごい!」第1位、「本格ミステリ・ベスト10」第1位。2003〜4年にかけて強烈な話題を呼んだ一冊です。
 全ての物語が伏線となって、最後に驚愕の展開を導きます。「後頭部をガツンとやられる感覚」とは言い得て妙。
 でもね、個人的にはトリックよりも、この物語自体が好きなんです。とてもいいテーマで、いいタイトルだなあと(笑)

ROMMY
 越境者の夢
講談社 “ あなたはどの嘘つきますか
  わたしはどの嘘ついたでしょう 


 一人のロックシンガーに捧げられた本。小説一冊がその形態を採った、非常に斬新な本です。雑誌のような、小説のようなそれは、ミステリの限界に挑んだ問題作です。
 ROMMYというシンガーのために、絵や写真、歌まで作った根性には、正直敬服。

死体を買う男 講談社 “ 「オヤ、妙だね。故障かい。フフフフフ」 ”

 江戸川乱歩と萩原朔太郎が主人公(!)の小説。を巡る話。乱歩調の文章(ウワァ、というようにカタカナになる)が面白い。ちゃんと本格推理しているし、しかもそれで終わらないのが歌野流。ただ、乱歩ってこんなに情けない人だったっけ。

放浪探偵と七つの殺人 講談社  私の記憶によれば、こういう場合は通常、
          次のように宣言するのがならわしである。
 ”

 短編集。7作全てが犯人当て小説となっており、単行本発売時には全て巻末が袋とじ、という凝った装丁。
 個人的には「有罪としての不在」が好み。実際に雑誌か何かで出題され、本で解答提示、ということをした作品。でも、これ完璧に解けた人いるのだろうか。どれもそれなり、だけどイマイチ記憶には残らない。


安達ヶ原の鬼密室 講談社 “ にょっきりと生えた二本の角。卸し金のような肌。 ”

 太平洋戦争中、迷い込んだ屋敷で少年は鬼に遭遇する。続々と起きる怪異、累々と積み重なる死体。銘打って黒塚七人殺し。
 本それ自体に壮大な仕掛けが施してある、実験作とも呼べる一冊。こういう形態は前代未聞では。とりあえず本屋で手にとって見るといいと思います。最初のページ、何が起こったのかと(笑)


生存者、一名 祥伝社 “ 生存者一名、死者五名で捜索終了 ”

 祥伝社400円文庫の一冊。その名の通り400円で買える文庫本。無論中身も軽いけど、これは値段に満足出来る一冊です。
 絶海の孤島に閉じ込められた人々、やがて起きる殺人、果たして生き残るのは誰か、という話。犯人当てならぬ、生存者当て。このラスト、個人的には好きです。

 
館という名の楽園で 祥伝社 “ 二十世紀、私にとって館は夢でした。
  二十一世紀、私にとって館は現実です。
 ”

 祥伝社400円文庫の一冊。館の主が客を招待し、推理ゲームを催す話。なので、殺人は起きません。安心です。まあ分量に見合った軽い本なので、電車でちょっと本を読みたいときなどにお勧めの一冊。


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