―麻耶雄嵩―   (まやゆたか、1969〜)
 

 みすてり作家さん。京大生、綾辻行人らの後輩。1991年、『翼ある闇―メルカトル鮎最後の事件』でデビュー。新本格第2世代の旗手として、強烈な問題作を次々と発表。『夏と冬の奏鳴曲』では京極夏彦『姑獲鳥の夏』と並ぶ超問題作として、賛否両論を浴びる。その後も、独特の作風で一ジャンルを築く。


 この作家さんは、極めて難解です。文章が難しい、というわけではなく、むしろちょっとすれたマニア向け、と言いますか。こんなんありかよ、という論理を力わざでねじ伏せるのが多い。観念論的なテーマを持ってきて、推理小説というよりも、むしろ世界とは何か、神とは何か、といったテーマそれ自体を謎解きとしてしまっているところがあります。初心者の僕が偉ぶって言えることではないのですが、ちょっとミステリを初めて読む、という方には勧めがたい。しかし、はまるとこれほど面白い人もいない、と思われまして。個人的に、この問題ぶりは、殊能将之さんのそれを上回るのではないかと。
 もう一つ言えることは、この人の作品は得てして後味が悪いです。なんでこんなやつ主人公にするかな、とか、なんでこんなやつ探偵にするかな、とか。救いようのない展開もままあります。
 もし、新本格という言葉が何か全く別次元の世界を指す言葉であったなら、それは間違いなくこの人のためにあるのかもしれません。。。



翼ある闇
メルカトル鮎最後の事件
講談社 “ 小さな歯車の食い違う音がどこかで鳴った。 

 デビュー作。古式ゆかしき古城、そこで起こる凄惨な連続大量殺人。密室、首切り、死者の徘徊、そして見立て。誰が、何のために?
 見せ場は、まず二人の探偵の火花散る戦いでしょう。ここで出てくる二人は、後作で探偵として活躍する二人であり、デビュー作では贅沢に使っています。
 もう一つ、これは言えませんがミステリファンを唸らせるある仕掛け。マニアであればあるほど、きっと衝撃は大きいんだろうなあ。
 ……つまり、俄かファンの僕としてはあまり衝撃を受けなかったわけですが。
 個人的には、後作ほどは面白くなかったです。唐突に展開する事件、イマイチつかめないキャラクタ。よくも悪くも後の麻耶作品ぶしは全開なのですが、これはちょっとイマイチかな。帯に書いてあるほどの傑作とは……。

夏と冬の
奏鳴曲(ソナタ)
講談社  「うゆーさん」 

 第2作。雪が降り積もった夏の朝、意味深な建造物、不可解な殺人。起こること全てが奇妙な島、和音島に起きる殺人事件、その真相は何か?
 究極の問題作です。僕の中では、『黒い仏』、『匣の中の失楽』と並ぶ三大奇書。
初読、正直僕は意味が全く分かりませんでした。それでも、何度か読むうち、何となく自分なりの仮説が出来上がってきて。
 キュビズムがテーマ(分かる人、僕の原稿の由来です)ですが、僕は読後キュビズムについて一通り勉強しなおして、もう一度読みました。これはもしかして最大の愚作か、最大の傑作かのどちらかではないかと思います。
 無人島に一冊持って行くとしたら、もしかしたらこれかな?

痾(あ) 講談社 “ 「たいもん」「にゃあ」「たいもん」「にゃあ」「たいもん」「にゃあ」 ”

 第3作。そして前作『夏と冬の奏鳴曲』の続編。前回の事件から半月、記憶喪失になった主人公。記憶を取り戻すため放火を繰り返すと、必ず放火後から死体が出てきて……。自分は殺人犯なのか?
 麻耶さんが肌に合う人なら、面白いでしょう。正直、最初の記憶喪失の原因が、
バナナの皮に滑って転んだといったときにはどうしようかと思いましたが。この解決を受け入れられるかどうか、あなたの正常具合が分かるかもしれません。トリックは良いのですが、小説としてはちょっと面白くないと言うか。
 ところで、猫のたいもんが可哀相すぎです。。。


あいにくの雨で 講談社 “”

 
メルカトルと美袋(みなぎ)のための殺人 講談社 “ 何故おれはこいつと友達してるんだ……背中を見つめながら、わたしは本気でそう思った。 ”

 短編集。7作収録。傲慢、残酷、怜悧、筆舌に尽くしがたい最悪の、そして天才的銘探偵メルカトル鮎。彼の活躍(?)を描く作品集。
 まず最初に言いたいのは、
こんな探偵見たことない、ということ。自分の名誉のためには、平気で人殺しすら容認。主人公すら彼にとっては駒に過ぎない。おそらく、ミステリ史上最低の探偵です。
 そして無論ばりばりの麻耶作品。特に一作目の『遠くで瑠璃鳥の啼く声が聞こえる』は傑作中の傑作。というか、この作品で評価4をつけさせて頂きました。

 
木製の王子 講談社  「神なき地へ、神なき館へようこそ」 ”

 あまりに人工的な一家、白樫家。そこで起きた、ピアノの上に生首が飾られるという凄惨な殺人。容疑者に存在する緻密すぎる分刻みのアリバイ。一体この家に何が起こっているのか?
 
これはいい。いや、無論麻耶さんに慣れてないと受け付けがたい作品だし、生首ってあたりが血が怖い僕にはきつかったんだけど、この衝撃度は年間ベスト級。思わず最初からもう一度読み直さずにはいられない(つまりはそれだけ複雑なプロットってことだ)作品。
 ちなみに僕はこのアリバイトリック見破ったぜ(自慢)。全然真相は分からなかったけど。


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買っちゃいました。えへ。



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