―有栖川有栖―(ありすがわありす、1959〜)


 ミステリ作家さん。綾辻行人と同時期に、東京創元社から鮮烈なデビュー。緻密な論理と、胸打つストーリーで大ブレイク。自らと同じ名前を冠した主人公が活躍する2シリーズを持つ。それぞれ学生アリスシリーズ(江神シリーズ)、作家アリスシリーズ(火村シリーズ)。『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞受賞。2007年も、相変わらず待望の学生アリスシリーズ4作目『砂男』刊行予定。


 この人の小説は、とにかく
胸をうつ作品。多分、生まれ着いてのストーリーテラーなのでしょう。深い感動をもたらす作風は、宮部みゆきさんをイメージすると近いかも。あるいは、映画「スタンド・バイ・ミー」を観たあとに残る、何とも言えない余韻。また余程関西を愛しておられるのか、出てくる人々皆関西弁。読み終わるころには、関西弁をマスターしていること間違いなし。
 シリーズは2つありますが、個人的には学生シリーズのほうが、好み。作家シリーズのほうは、ややパズル、クイズ的な小説、という印象がなくもない。また、シリーズじゃないけど『マジック・ミラー』は秀逸。


月光ゲーム
  Yの悲劇’88
東京
創元社
“ 「アリス、コーヒーを淹れようか」 

 学生アリスシリーズ1作目。デビュー作。アリスという珍妙な名前の僕や、江神さんらミステリ研のメンバーを中心にしたシリーズ。噴火により孤立したキャンプ場で起きる殺人、犯人は誰か。
 犯人特定の論理性も然ることながら、アリスを中心とした青春小説として、大変に心に残る一冊です。やはりこの人は生来のストーリーテラーなんだなと。本格ミステリとしても不可なく、小説としては見事という領域。しかし、極限状況での恋、というのは、やっぱり青春なんだね。

孤島パズル 東京
創元社
 「アリス。私をボートに乗せて」
  随分唐突ではあったけれど、彼女が言うたいていのことを今は聞いてやろう、と僕は思った。
  「ええよ。乗ろう」 


 学生アリスシリーズ2作目。デビュー作の面子に新メンバーのマリアを加えて、より論理緻密な作品。マリアの親戚筋が住む島に遊びに行ったメンバーが、殺人事件に遭遇する。たった一つの紙切れから、事件の全貌を暴く論理性には脱帽。
 個人的には、途中アリスとマリアがボートに乗るシーンがお気に入り。決して恋人ではない二人の、この関係が好きです。
 なお、この作品の終わりは次の『双頭の悪魔』と繋がっています。先にこれを読んでおくと、非常に楽しめるでしょう。

双頭の悪魔 東京
創元社
“ ――もう、どこへも行くなよ。 ”

 学生アリスシリーズ3作目。そして作者の最高傑作と名高い一冊。前作の続きから始まる物語。洪水で氾濫した川を境に、二つの舞台でそれぞれ起こる殺人事件。行き来不能の村に、何が起こっているのか。
 途中差し込まれる三度の「読者への挑戦状」、そして見事に昇華される真相。このネタは見事、の一言。本格ミステリとして、一小説として、これだけ楽しい思いをさせてくれる一冊は少ないでしょう。誉めすぎかな(笑)?

山伏地蔵坊の放浪 東京
創元社
僕たちは、みんな彼を愛していた。

 ノンシリーズ。短編集。土曜日になると、バーに現れて、不思議な話を語る山伏。彼の出す奇妙な謎を、解くことはできるか?
 有栖川さんらしく、話は軽妙に進んでいくのですが、いまいち面白くありませんでした。作家シリーズの短編に比べると、どうしても見劣りがしてしまうし、謎も小粒。極端にどこが悪いわけでもないのだけれど、あまり記憶に残らない一冊。

マジックミラー 講談社 “ 「ようよう、元気出せよ、兄弟」 ”

 ノンシリーズ。長編。双子の兄の妻が殺された。しかし、双子にはそれぞれ鉄壁のアリバイがあって。やがて起きる第二の殺人。犯人は、誰か?
 有名なアリバイ講義が収録されています。時刻表とか使うトリックは嫌いなので、前半のアリバイトリックはイマイチだなあとか思っていたのですが、結末を読んで唖然。これ、最後ちゃんと気付かないと駄目ですよ?友人の一人は気付いてなくて。
 何より、主人公を巡る物語の、なんと悲しみに満ちたことか。悲しみという名の感動を味わえる、いい作品です。


46番目の密室 講談社  救った人間が屑だったから損をした、なんて考える人間が、命を賭けて火の中に飛び込めるか? ”

 作家アリスシリーズ1作目。長編。作家アリスと、<臨床犯罪学者>助教授火村コンビによる、大御所推理作家の密室殺人事件への挑戦。
 誰にも感情移入でき、誰にも反感を持つことも出来るというのは、作者の手腕のなせる業。ただ、トリックに関してはやや薄味。
 それにしても、本書にはミステリ論の中で、『天上の小説』なる至高の小説が理想として語られるわけですが。あるのなら、『天上の小説』、読んでみたいですね。あるいはそれは、有栖川さんの生涯の目標なのかも。

ロシア紅茶の謎 講談社 “ 彼は、愛に似た獣を撃ったのだ。 ”

 作家アリスシリーズ。短編6個。このシリーズは、トリック云々よりも、アリスと火村二人の掛け合いや、垣間見える人間性といったものを楽しむシリーズかも。
 お勧めは「赤い稲妻」「ロシア紅茶の謎」。特に「ロシア紅茶の謎」は、話としても、トリックとしても面白い。ロシア紅茶を飲んだ男が毒殺された。しかし容疑者誰にしても毒を入れることが可能には見えない。いかに、毒は混入されたか?という話。
 ところで、この探偵役の火村、一部では熱烈な女性ファンがいらっしゃるようで。とすれば、あの台詞は女性ファンに悲鳴を上げさせたに違いない(笑)

スウェーデン館の謎 講談社 “ 私の天使、と母親はことあるごとに頬ずりをした。
  俺の生きがい、と父親は酔って友人に語った。
 ”

 作家アリスシリーズ。長編。雪深い場所に佇むスウェーデン館、そこで起きるあまりにも悲しい事件。
 一応密室(雪の足跡)殺人なのですが、そんなことは正直どうでもよくなる話。それほど、物語が悲しすぎます。冒頭、少年ルナのエピソードですでに胸が痛くなった私。つらいよう(笑)
 作家アリスシリーズの中では、僕一番のお勧めです。極上の小説を、一つどうぞ。

 
ブラジル蝶の謎 講談社 “ 悲運の中から、無数の蝶々がはばたくことを、私は祈る。 ”

 作家アリスシリーズ。短編6個。今まで読んだ国名短編の中では、一番のお気に入り。一冊を通して、ちょっとした仕掛けがあります。
 「ブラジル蝶の謎」は、もう一ひねり欲しいところ。
 「人食いの滝」は、有栖川さんには珍しくトリックで読ませる。
 「蝶々ははばたく」は、感動をもたらすいい作品。個人的一番。“風が吹けば桶屋が儲かる”について一議論あり、それも面白いです。

英国庭園の謎 講談社 “ 「あんたの時計、遅れてるぜ」 ”

 作家アリスシリーズ。短編6個。秀作と凡作のせめぎ合い、でしょうか。
 「完璧な遺書」は、偽造された完璧な遺書の唯一の瑕疵についての作品。ですが、イマイチ決定打に欠ける結論。
 「ジャバウォッキー」は、日本中にパニックをもたらそうとする者との頭脳戦。これはいい作品。クイズ的だけど、構成としてまたキャラクターとして面白い。
 

ペルシャ猫の謎 講談社 “ 稀有な体験ですね。 ”

 作家アリスシリーズ。短編7個。うーん、これはシリーズの中でもイマイチでしょうか。話題作は多かったんだけど。
 「赤い帽子」はなんと、
大阪府警の社内雑誌に掲載された話。警察官に読まれるミステリだけあって、警察主人公の、捜査モノ。これが一番面白いかな。
 「ペルシャ猫の謎」は、一部で問題作と言わしめた作品。なるほど、やや意表をつく驚きをもたらすもの。しかしどうせやるなら『黒い仏』(殊能将之)ぐらいやってくれなきゃね(笑)。
 個人的には、一発ネタの「悲劇的」がお気に入り。ほんと一発ネタだけど。

幽霊刑事 講談社 “ 「いつまでも、忘れない」 ”

 上司に射殺され、幽霊になってしまった警官の主人公。話せない、触れない。極限状況の中、唯一自分と話すことの出来る部下と協力して、犯人の悪事を暴くことができるか?
 映画「ゴースト」と同様の展開な、ミステリ・ラブストーリー。ミステリは薄味で、ユーモアと、愛の行方を楽しむ話。面白いです。元々舞台のための脚本だったものを作品化したものですが……最後の余韻が何ともいいですねー。でも、これをどうやって舞台化したのかが気になる。


有栖川有栖の
密室大図鑑
新潮社 “ <密室>は不滅だ。 ”

 磯田和一との共著。『モルグ街の殺人』以来、古今東西に存在する「密室」ミステリの中から、有栖川さんが重要さ、面白さなど独自の視点で40の作品を選び、そこに磯田さんが、各密室のイラストを一つ一つ描いた文庫図鑑。文庫版にはさらに一つおまけあり。
 「密室」という魅惑的なテーマのみならず、これ一冊が、広い意味でのミステリ歴史になっているのがミソ。取り上げられているのはどれも傑作揃い。この本を元にして、ミステリを読んでいくというのも手。無論、ただの読み物としてもとても面白いです。
 P.S.実は細かいことなのですが、『全てがFになる』のイラストは若干間違っています(笑)


絶叫城殺人事件 新潮社 “ 「拙者が推理作家と知っての狼藉か?」
  私は馬鹿なことを呟いた。 ”

 「〜殺人事件」と銘打つ6編の短編集。お勧めは「月宮殿殺人事件」「絶叫城殺人事件」
 「月宮殿殺人事件」は、ホームレスが木材などを勝手ばらばらに継ぎ接ぎして作った奇妙な建物を舞台にした事件。解決のファックスは、頭が?になって面白かった。
 「絶叫城殺人事件」は、バーチャルなゲームを彷彿とさせる通り魔事件。絶叫城そのものよりも、やはり犯人の動機が、非常にパンチが効いていてよかです。

ダリの繭 角川文庫 “ 「そうや。あのダリ髭は見間違いようがない」 ”

 サルバドール・ダリをこよなく愛した社長が殺された。彼のトレードマークである、ダリ髭がなぜか切り取られて。犯人は、そして髭を剃った動機は?
 冒頭の、髭を剃られたのはなぜか、という謎が魅惑的なのに比べて、その後の展開がやや冗長になってしまった感。パズラーとしてはまずまずだと思いますが、イマイチかな。有栖川さんは長編の方が、ドラマがあって面白い、と思ってるのですが、その中ではやや見劣りする、と僕は思います。さて皆さんの評価は?

作家小説 幻冬舎文庫 “ ――物語の神。どうしたらあなたのようになれるか、導いて欲しいのです。 ”

 短編集。作家という職業に付きまとうあれこれを、あるときはミステリに、あるときはホラーに、あるときは漫才にした短編。
 有栖川さんの、ミステリ以外のジャンルに挑戦した作品と受け取られていますが。はて、イマイチ成功してない気がします。
 着想自体は面白いのですが、それを生かしきれていない、という。いや、僕がそんな偉そうなこと言う筋合いではないですが(汗)正直、あまり面白くは無かったです。

マレー鉄道の謎 講談社文庫 “ ――物語の神。どうしたらあなたのようになれるか、導いて欲しいのです。 ”

 作家アリスシリーズ長編。
スイス時計の謎 講談社文庫 “ ありがとう、と。 ”

 作家アリスシリーズ。短編4個。
乱鴉の島 新潮社 “  ”

 作家アリスシリーズ長編。


          BOOKに戻る